全社的統制
評価の範囲の決定 [金融庁 企業会計審議会 実施基準U.2(2)]
原則として、すべての事業拠点について全社的な観点で評価することに留意する。ただし、財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点に係るものについて、その重要性を勘案して、評価対象としないことを妨げるものではない。
全社的な内部統制の評価 [金融庁 企業会計審議会 実施基準U.3(2)]
全社的な内部統制は企業全体に広く影響を及ぼし、企業全体を対象とする内部統制であり、基本的には企業全体を対象とする内部統制を意味する。
ただし、企業集団内の子会社や事業部等に独特の歴史、慣習、組織構造等が認められ当該子会社や事業部等を対象とする内部統制を別途評価対象とすることが適切と判断される場合には、
個々の子会社や事業部等のみを対象とする全社的な内部統制を評価することもある。
その場合、どの子会社や事業部等の単位で内部統制を識別し、評価を実施するかは経営者が財務報告への影響の重要性を勘案して適切に判断する。
Q&A問3:[金融庁 内部統制報告制度に関するQ&A]
財務報告に対する当該事業拠点の影響の重要性を勘案して、経営者において、必要に応じて監査人と協議して、判断されるべきものであり、その判断基準について、一概に言うことは適切でないと考えるが、例えば、売上高で全体の95%に入らないような連結子会社は僅少なものとしてはずすといった取扱いは一般的なものであると承知している。なお、決算・財務報告プロセスのうち全社的な観点で評価することが適切と考えられるものについても同様の取扱いが考えられる。
Q&A問5:[金融庁 内部統制報告制度に関するQ&A]
Q 関連会社の利益に持分割合をかけたものと連結税引前利益とを比較する方法のほか、関連会社の売上高に持分割合を掛けたものと連結ベースの売上高とを比較する方法を採用することで問題はないか。
A 御指摘のような方法も一法としてあり得ると考えられる。
評価項目 [金融庁 企業会計審議会 実施基準U.3(2)]
全社的な内部統制の形態は、企業のおかれた環境や事業の特性等によって様々であり、企業ごとに適した内部統制を整備及び運用することが求められるが、各基本的要素ごとに、例えば、参考1のような評価項目が考えられる。ただし、必ずしも参考1の例によらない場合があること及び参考1の例による場合でも、適宜、加除修正がありうることに留意する。
評価項目の例 [金融庁 企業会計審議会 実施基準U 参考1]
統制環境
01.経営者は、信頼性のある財務報告を重視し、財務報告に係る内部統制の役割を含め、財務報告の基本方針を明確に示しているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・財務報告の基本方針書
・財務報告に係る内部統制規程
・経理規程
・連結決算規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・社内報
・イントラネット
02.適切な経営理念や倫理規程に基づき、社内の制度が設計・運用され、原則を逸脱した行動が発見された場合には、適切に是正が行われるようになっているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・社是/社訓
・経営理念
・行動規範/行動基準
・就業規則
・賞罰規程
・コンプライアンス規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・社内報
・イントラネット
・コンプライアンス委員会議事録
03.経営者は、適切な会計処理の原則を選択し、会計上の見積もり等を決定する際の客観的な実施過程を保持しているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・取締役会規程
・経営会議規程
・経理規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・取締役会議事録
・経営会議議事録
・外部監査人との協議議事録
・経理部門検討資料
04.取締役会および監査役又は監査委員会は、財務報告とその内部統制に関し経営者を適切に監督・監視する責任を理解し、実行しているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・取締役会規程
・監査役会規程
・監査役監査基準
・財務報告に係る内部統制規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・取締役会議事録
・監査役会議事録
05.監査役又は監査委員会は内部監査人及び外部監査人と適切な連携を図っているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・監査役会規程
・監査役監査基準
・内部監査規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・監査役会議事録
・内部監査報告書
・会計監査報告書
・外部監査人との協議議事録
06.経営者は、問題があっても指摘しにくい等の組織構造や慣行があると認められる事実が存在する場合に、適切な改善を図っているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・取締役会規程
・経営会議規程
・組織規程
・内部通報規程
・内部監査規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・取締役会議事録
・経営会議議事録
・内部通報記録/報告書
・内部監査報告書
07.経営者は、企業内の個々の職能(生産、販売、情報、会計等)及び活動単位に対して、適切な役割分担を定めているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・組織規程
・業務分掌規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・イントラネット
08.経営者は、信頼性のある財務報告の作成を支えるのに必要な能力を識別し、所要の能力を有する人材を確保・配置しているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・職務要件書
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・人員配置表
・業務分担表
・経歴書
・教育履歴
09.信頼性のある財務報告の作成に必要とされる能力の内容は、定期的に見直され、常に適切なものとなっているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・職務記述書
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・勉強会記録
・教育研修受講記録
・定期購読
10.責任の割り当てと権限の委任がすべての従業員に対して明確になされているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・業務分掌規程
・職務権限規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・イントラネット
11.従業員等に対する権限と責任の委任は、無制限ではなく、適切な範囲に限定されているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・職務権限規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・イントラネット
12.経営者は、従業員等に職務の遂行に必要となる手段や訓練等を提供し、従業員の能力を引き出すことを支援しているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・教育研修規程
・能力開発規程
・自己啓発援助制度に関する規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・教育計画表
・教育計画管理表
13.従業員等の勤務評価は、公平で適切なものとなっているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・人事評価規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・人事評価シート
・人事評価委員会議事録
リスクの評価と対応
14.信頼性のある財務報告の作成のため、適切な階層の経営者、管理者を関与させる有効なリスク評価の仕組みが存在しているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・リスク管理規程
・財務報告に係る内部統制規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・取締役会議事録
・経営会議議事録
15.リスクを識別する作業において、企業の内外の諸要因及び当該要因が信頼性のある財務報告の作成に及ぼす影響が適切に考慮されているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・リスク管理規程
・財務報告に係る内部統制規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・取締役会議事録
・経営会議議事録
16.経営者は、組織の変更やITの開発など、信頼性のある財務報告の作成に重要な影響を及ぼす可能性のある変化が発生する都度、リスクを再評価する仕組みを設定し、適切な対応を図っているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・リスク管理規程
・財務報告に係る内部統制規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・取締役会議事録
・経営会議議事録
17.経営者は、不正に関するリスクを検討する際に、単に不正に関する表面的な事実だけでなく、不正を犯させるに至る動機、原因、背景等を踏まえ、適切にリスクを評価し、対応しているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・コンプライアンス規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・取締役会議事録
・経営会議議事録
・コンプライアンス委員会議事録
統制活動
18.信頼性のある財務報告の作成に対するリスクに対処して、これを十分に軽減する統制活動を確保するための方針と手続を定めているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・財務報告に係る内部統制規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・イントラネット
19.経営者は、信頼性のある財務報告の作成に関し、職務の分掌を明確化し、権限や職責を担当者に適切に分担させているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・財務報告に係る内部統制規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・業務分担表
20.統制活動に係る責任と説明義務を、リスクが存在する業務単位又は業務プロセスの管理者に適切に帰属させているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・職務権限規程
・財務報告に係る内部統制規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・業務分担表
21.全社的な職務規程や、個々の業務手順を適切に作成しているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・職務権限規程
・業務分掌規程
・販売管理規程
・資材購買管理規程
・生産管理規程
・棚卸資産管理規程
・固定資産管理規程
・経理規程
・給与規程
・情報システム管理規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・取締役会議事録
・経営会議議事録
・稟議書
・イントラネット
22.統制活動は業務全体にわたって誠実に実施されているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・取締役会規程
・経営会議規程
・関係会社管理規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・取締役会議事録
・経営会議議事録
・稟議書
23.統制活動を実施することにより検出された誤謬等は適切に調査され、必要な対応が取られているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・財務報告に係る内部統制規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・是正指示書
・対応実施記録/報告書
24.統制活動は、その実行状況を踏まえて、その妥当性が定期的に検証され、必要な改善が行われているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・財務報告に係る内部統制規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・対応実施記録/報告書
情報と伝達
25.信頼性のある財務報告の作成に関する経営者の方針や指示が、企業内のすべての者、特に財務報告の作成に関連する者に適切に伝達される体制が整備されているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・経理規程
・連結決算規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・イントラネット
・通達
26.会計及び財務に関する情報が、関連する業務プロセスから適切に情報システムに伝達され、適切に利用可能となるような体制が整備されているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・業務系統図
・システム連関図
・機能構成図
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・データ/レポート配信一覧
27.内部統制に関する重要な情報が円滑に経営者及び組織内の適切な管理者に伝達される体制が整備されているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・財務報告に係る内部統制規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・経営会議議事録
・職場会議議事録
28.経営者、取締役会、監査役又は監査委員会及びその他の関係者の間で、情報が適切に伝達・共有されているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・取締役会規程
・経営会議規程
・監査役会規程
・財務報告に係る内部統制規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・取締役会議事録
・経営会議議事録
・監査役会議事録
29.内部通報の仕組みなど、通常の報告経路から独立した伝達経路が利用できるように設定されているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・内部通報規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・通報/相談記録
30.内部統制に関する企業外部からの情報を適切に利用し、経営者、取締役会、監査役又は監査委員会に適切に伝達する仕組みとなっているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・クレーム管理規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・取締役会議事録
・経営会議議事録
・監査役会議事録
モニタリング
31.日常的モニタリングが、企業の業務活動に適切に組み込まれているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・職務権限規程
・業務分掌規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・業務日報/月報
・職場会議
・伝票承認
32.経営者は、独立的評価の範囲と頻度を、リスクの重要性、内部統制の重要性及び日常的モニタリングの有効性に応じて適切に調整しているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・内部監査規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・取締役会議事録
・経営会議議事録
・内部監査計画書
・内部監査報告書
33.モニタリングの実施責任者には、業務遂行を行うに足る十分な知識や能力を有する者が指名されているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・人事評価規程
・職能要件書
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・人事評価シート
34.経営者は、モニタリングの結果を適時に受領し、適切な検討を行っているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・取締役会規程
・経営会議規程
・内部監査規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・取締役会議事録
・経営会議議事録
・内部監査報告書
35.企業の内外から伝達された内部統制に関する重要な情報は適切に検討され、必要な是正措置が取られているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・財務報告に係る内部統制規程
・内部通報規程
・クレーム管理規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・対応記録/報告書
36.モニタリングによって得られた内部統制の不備に関する情報は、当該実施過程に係る上位の管理者並びに当該実施過程及び関連する内部統制を管理し是正措置を実施すべき地位にある者に適切に報告されているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・財務報告に係る内部統制規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・対応記録/報告書
37.内部統制に係る重要な欠陥等に関する情報は、経営者、取締役会、監査役又は監査委員会に適切に伝達されているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・取締役会規程
・経営会議規程
・監査役会規程
・財務報告に係る内部統制規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・取締役会議事録
・経営会議議事録
・監査役会議事録
ITへの対応
38.経営者は、ITに関する適切な戦略、計画等を定めているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・取締役会規程
・経営会議規程
・予算管理規程
・情報システム管理規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・取締役会議事録
・経営会議議事録
・予算委員会議事録
39.経営者は、内部統制を整備する際に、IT環境を適切に理解し、これを踏まえた方針を明確に示しているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・財務報告に係る内部統制規程
・情報システム管理規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・システム一覧表
・ネットワーク構成図
・イントラネット
40.経営者は、信頼性のある財務報告の作成という目的の達成に対するリスクを低減するため、手作業及びITを用いた統制の利用領域について、適切に判断しているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・財務報告に係る内部統制規程
・情報システム管理規程
・情報システム導入規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・情報システム導入計画書
・情報システム要件定義書
41.ITを用いて統制活動を整備する際には、ITを利用することにより生じる新たなリスクが考慮されているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・財務報告に係る内部統制規程
・情報システム管理規程
・情報システム導入規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・情報システム導入計画書
・情報システム要件定義書
42.経営者は、ITに係る全般統制及びITに係る業務処理統制についての方針及び手続を適切に定めているか。
⇒整備状況の評価に必要な証憑例
・財務報告に係る内部統制規程
・情報システム管理規程
・情報システム導入規程
・情報システム運用保守規程
⇒運用状況の評価に必要な証憑例
・イントラネット
《参考文献》
日本内部監査協会「財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価質問書」
新日本有限責任監査法人 内部統制実務講座 「第2回 内部統制の実務Q&A」
監査法人トーマツ 会計情報 「財務報告に係る内部統制 第3回 全社的な内部統制の文書化・評価」
Copyright (C) 2006 Management Solution Inc , All rights reserved.