業務処理統制(固有プロセス)
評価の範囲の決定 [金融庁 企業会計審議会 基準U.2(2)]
@重要な事業拠点の選定
企業が複数の事業拠点を有する場合には、評価対象とする事業拠点を売上高等の重要性により決定する。例えば、本社を含む各事業拠点の売上高等の金額の高い拠点から合算していき、連結ベースの売上高等の一定の割合に達している事業拠点を評価の対象とする。
(注1)事業拠点は、必ずしも地理的な概念にとらわれるものではなく、企業の実態に応じ、本社、子会社、支社、支店のほか、事業部等として識別されることがある。また、事業拠点を選定する指標として、基本的には、売上高が用いられるが、企業の置かれた環境や事業の特性によって、異なる指標や追加的な指標を用いることがある。
(注2)一定割合をどう考えるかについては、企業により事業又は業務の特性等が異なることから、一律に示すことは困難であると考えられるが、全社的な内部統制の評価が良好であれば、例えば、連結ベースの売上高等の一定割合を概ね2/3程度とし、これに以下Aで記述する、重要性の大きい個別の業務プロセスの評価対象への追加を適切に行うことが考えられる。なお、連結ベースの売上高に対する一定割合ではなく、内部取引の連結消去前の売上高等に対する一定割合とする方法も考えられる。
(注3)関連会社については、連結ベースの売上高に関連会社の売上高が含まれておらず、当該関連会社の売上高等をそのまま一定割合の算出に当てはめることはできないことから、別途、各関連会社が有する財務諸表に対する影響の重要性を勘案して評価対象を決定する。
A評価対象とする業務プロセスの識別
イ.@で選定した重要な事業拠点(持分法適用となる関連会社を除く。)における、企
業の事業目的に大きく関わる勘定科目(例えば、一般的な事業会社の場合、原則と
して、売上、売掛金及び棚卸資産)に至る業務プロセスは、原則として、すべてを
評価の対象とする。
ただし、例えば、当該重要な事業拠点が行う重要な事業又は業務との関連性が低く、
財務報告に対する影響の重要性も僅少である業務プロセスについては、それらを評
価対象としないことができる。その場合には、評価対象としなかった業務プロセス、
評価対象としなかった理由について記録しておく必要があることに留意する。
なお、棚卸資産に至る業務プロセスには、販売プロセスの他、在庫管理プロセス、
期末の棚卸プロセス、購入プロセス、原価計算プロセス等が関連してくると考えら
れるが、これらのうち、どこまでを評価対象とするかについては、企業の特性等を
踏まえて、虚偽記載の発生するリスクが的確に把えられるよう、適切に判断される
必要がある。
一般に、原価計算プロセスについては、期末の在庫評価に必要な範囲を評価対象と
すれば足りると考えられるので、必ずしも原価計算プロセスの全工程にわたる評価
を実施する必要はないことに留意する。
ロ.@で選定された事業拠点及びそれ以外の事業拠点について、財務報告への影響を
勘案して、重要性の大きい業務プロセスについては、個別に評価対象に追加する。
その際の留意点は以下のとおりである。
a.リスクが大きい取引を行っている事業又は業務に係る業務プロセス
例えば、財務報告の重要な事項の虚偽記載に結びつきやすい事業上のリスクを有
する事業又は業務(例えば、金融取引やデリバティブ取引を行っている事業又は業
務や価格変動の激しい棚卸資産を抱えている事業又は業務など)や、複雑な会計処
理が必要な取引を行っている事業又は業務を行っている場合には、当該事業又は
業務に係る業務プロセスは、追加的に評価対象に含めることを検討する。
b.見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス
例えば、引当金や固定資産の減損損失、繰延税金資産(負債)など見積りや経
営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセスで、財務報告に及ぼす
影響が最終的に大きくなる可能性があるものは、追加的に評価対象に含めること
を検討する。
c.非定型・不規則な取引など虚偽記載が発生するリスクが高いものとして、特に
留意すべき業務プロセス
例えば、通常の契約条件や決済方法と異なる取引、期末に集中しての取引や過
年度の趨勢から見て突出した取引等非定型・不規則な取引を行っていることなど
から虚偽記載の発生するリスクが高いものとして、特に留意すべき業務プロセス
については、追加的に評価対象に含めることを検討する。
d.上記その他の理由により追加的に評価対象に含める場合において、財務報告へ
の影響の重要性を勘案して、事業又は業務の全体ではなく、特定の取引又は事象
(あるいは、その中の特定の主要な業務プロセス)のみを評価対象に含めれば足
りる場合には、その部分だけを評価対象に含めることで足りる。
業務処理統制(固有プロセス)の評価 [金融庁 企業会計審議会 基準U.2(3)]
経営者は、全社的な内部統制の評価結果を踏まえ、評価対象となる業務プロセスを分析
した上で、財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす内部統制を統制上の要点として識別す
る。次に、統制上の要点となる内部統制が虚偽記載の発生するリスクを十分に低減してい
るかどうかを評価する。経営者は、各々の統制上の要点の整備及び運用の状況を評価する
ことによって、当該業務プロセスに係る内部統制の有効性に関する評価の基礎とする。
@ 評価対象となる業務プロセスの把握・整理
経営者は、評価対象となる業務プロセスにおける取引の開始、承認、記録、処理、
報告を含め、取引の流れを把握し、取引の発生から集計、記帳といった会計処理の過
程を理解する。把握された業務プロセスの概要については、必要に応じ図や表を活用
して整理・記録することが有用である。
A 業務プロセスにおける虚偽記載の発生するリスクとこれを低減する統制の識別
イ.経営者は、評価対象となる業務プロセスにおいて、不正又は誤謬により、虚偽記
載が発生するリスクを識別する。
このリスクを識別するに当たっては、当該不正又は誤謬が発生した場合に、実在
性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性
といった適切な財務情報を作成するための要件のうち、どの要件に影響を及ぼすか
について理解しておくことが重要となる。
a.実在性−資産及び負債が実際に存在し、取引や会計事象が実際に発生してい
ること
b.網羅性−計上すべき資産、負債、取引や会計事象をすべて記録していること
c.権利と義務の帰属−計上されている資産に対する権利及び負債に対する義務が企業に帰属していること
d.評価の妥当性−資産及び負債を適切な価額で計上していること
e.期間配分の適切性−取引や会計事象を適切な金額で記録し、収益及び費用を適切な期間に配分していること
f.表示の妥当性−取引や会計事象を適切に表示していること
ロ.虚偽記載が発生するリスクを低減するための統制上の要点を識別する。
経営者は、虚偽記載が発生するリスクを低減するための内部統制を識別する。そ
の際、特に取引の開始、承認、記録、処理、報告に関する内部統制を対象に、実在
性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性
といった適切な財務情報を作成するための要件を確保するために、どのような内部
統制が必要かという観点から識別する。
経営者は、個々の重要な勘定科目に関係する個々の統制上の要点について、内部
統制が適切に機能し、実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配
分の適切性、表示の妥当性といった要件を確保する合理的な保証を提供しているか
を判断することを通じて、財務報告に係る内部統制についての基本的要素が有効に
機能しているかを判断する。
なお、業務プロセスに係る内部統制の整備及び運用状況の評価については、必要
に応じ、図や表を活用して整理・記録することが有用である。
《参考文献》
新日本有限責任監査法人 内部統制実務講座 「第10回 財務報告に係る内部統制評価の実務―プロセスレベル統制の有効性評価― 」
監査法人トーマツ 会計情報 「財務報告に係る内部統制 第5回 業務プロセスに係る内部統制の文書化」
B 業務プロセスに係る内部統制の整備状況の有効性の評価
経営者は、上記Aによって識別した個々の重要な勘定科目に関係する個々の統制上
の要点が適切に整備され、実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間
配分の適切性、表示の妥当性といった適切な財務情報を作成するための要件を確保す
る合理的な保証を提供できているかについて、関連文書の閲覧、従業員等への質問、
観察等を通じて判断する。この際、内部統制が規程や方針に従って運用された場合に、
財務報告の重要な事項に虚偽記載が発生するリスクを十分に低減できるものとなって
いるかにより、当該内部統制の整備状況の有効性を評価する。
《参考文献》
新日本有限責任監査法人 内部統制実務講座 「第11回 財務報告に係る内部統制評価の実務―プロセスレベル統制の有効性評価(その2)―」
C 業務プロセスに係る内部統制の運用状況の有効性の評価
イ. 運用状況の評価の内容
経営者は、業務プロセスに係る内部統制が適切に運用されているかを判断するた
め、業務プロセスに係る内部統制の運用状況の評価を実施する。
経営者は、関連文書の閲覧、当該内部統制に関係する適切な担当者への質問、業務
の観察、内部統制の実施記録の検証、各現場における内部統制の運用状況に関する自
己点検の状況の検討等により、業務プロセスに係る内部統制の運用状況を確認する。
ロ.運用状況の評価の実施方法
運用状況の評価の実施に際して、経営者は、原則としてサンプリングにより十分か
つ適切な証拠を入手する。全社的な内部統制の評価結果が良好である場合や、業務プ
ロセスの内部統制に関して、同一の方針に基づく標準的な手続が企業内部の複数の事
業拠点で広範に導入されていると判断される場合には、サンプリングの範囲を縮小す
ることができる。
例えば、複数の営業拠点や店舗を展開している場合において、統一的な規程により
業務が実施されている、業務の意思決定に必要な情報と伝達が良好である、内部統制
の同一性をモニタリングする内部監査が実施されている等、全社的な内部統制が良好
に運用されていると評価される場合には、全ての営業拠点について運用状況の評価を
実施するのではなく、個々の事業拠点の特性に応じていくつかのグループに分け、各
グループの一部の営業拠点に運用状況の評価を実施して、その結果により全体の内部
統制の運用状況を推定し、評価することができる。
評価対象とする営業拠点等については、計画策定の際に、一定期間で全ての営業拠
点を一巡する点に留意しつつ、無作為抽出の方法を導入するなどその効果的な選定方
法について検討する。
ハ.運用状況の評価の実施時期
評価時点(期末日)における内部統制の有効性を判断するには、適切な時期に運用
状況の評価を実施することが必要となる。
運用状況の評価を期中に実施した場合、期末日までに内部統制に関する重要な変更
があったときには、例えば、以下の追加手続の実施を検討する。なお、変更されて期
末日に存在しない内部統制については、評価する必要はないことに留意する。
a. 重要な変更の内容の把握・整理
b. 変更に伴う業務プロセスにおける虚偽記載の発生するリスクとこれを低減する
統制の識別を含む変更後の内部統制の整備状況の有効性の評価
c. 変更後の内部統制の運用状況の有効性の評価
なお、決算・財務報告プロセスに係る内部統制の運用状況の評価については、当
該期において適切な決算・財務報告プロセスが確保されるよう、仮に不備があると
すれば早期に是正が図られるべきであり、また、財務諸表監査における内部統制の
評価プロセスとも重なりあう部分が多いと考えられることから、期末日までに内部
統制に関する重要な変更があった場合には適切な追加手続が実施されることを前提
に、前年度の運用状況をベースに、早期に実施されることが効率的・効果的である。
《参考文献》
新日本有限責任監査法人 内部統制実務講座 「第12回 財務報告に係る内部統制評価の実務―プロセスレベル統制の有効性評価(その3)― 」
ITに係る業務処理統制の評価 [金融庁 企業会計審議会 基準U.3(3)]
経営者は、識別したITに係る業務処理統制が、適切に業務プロセスに組み込
まれ、運用されているかを評価する。具体的には、例えば、次のような点につい
て、業務処理統制が有効に整備及び運用されているかを評価する。
・入力情報の完全性、正確性、正当性等が確保されているか。
・エラーデータの修正と再処理の機能が確保されているか。
・マスタ・データの正確性が確保されているか。
・システムの利用に関する認証・操作範囲の限定など適切なアクセス管理がな
されているか。
ITを利用した内部統制の評価は、ITを利用していない内部統制と同様に原
則として毎期実施する必要がある。しかし、ITを利用して自動化された内部統
制に関しては、一度内部統制が設定されると、変更やエラーが発生しない限り一
貫して機能するという性質がある。したがって、経営者は、自動化された内部統
制が過年度に内部統制の不備が発見されずに有効に運用されていると評価された
場合、評価された時点から内部統制が変更されてないこと、障害・エラー等の不具
合が発生していないこと、及び関連する全般統制の整備及び運用の状況を確認及
び評価した結果、全般統制が有効に機能していると判断できる場合には、その結
果を記録することで、当該評価結果を継続して利用することができる。
《参考文献》
公認会計士協会「自動化された業務処理統制等に関する評価手続」
監査法人トーマツ 会計情報 「自動化された業務処理統制等に関する評価手続について」
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